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2007年、10年近く前に書いた崇徳院と兵衛佐局の物語のシナリオ草稿が出てきました。
マンガとして完成させてから発表となるといつになるかわかりませんので、一旦発表しちゃいます。
10年前だからふんわりとした物語の作りをしていますなぁ…。
完成させるにはもう少しつめなきゃ。

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平安末期の京の都。

真っ暗な夜の草叢。
時折、強い風が吹き、草を揺らす。

そこに笛を腰に挿した公達が一人、立っている。
歳の頃は二十一、二歳。目は澄み、前に視線をはっきり伸ばしている。

直衣は上等の練り絹。風にあおられ、はためいている。
闇夜にもかかわらず、袖にだけ光が宿っているかのように艶めいている。

突然公達の背後から強い風が吹き、鬢のほつれ毛が顔にまとわり付いた。

公達は何かが背後から迫ってくるような気がして、足をしっかり踏ん張り、振り向いた。

大きな黒雲が迫ってきていた。公達を飲み込むように、押しつぶすように、ゆっくりと―

公達―今上天皇・顕仁(後の崇徳院)―は、恐怖を感じて、走り出した。

「誰か・・・誰か・・助けてくれ・・・」

叫ぶ顕仁の頭の中で、「父院!」という言葉が弾けた。

と・・・顕仁の目の前に現れたのは、曽祖父の白河法皇。
10年ほど前に、77歳の齢で亡くなられた御方だ。

豪華な法衣と袈裟に身を包んだ白河法皇は、顕仁に暖かい微笑を見せている。

「あ・・・お祖父様、なぜ?」

顕仁は息を切らせながら、白河法皇に問いかけた。
「父院は・・・いずこに?」

白河法皇はにっこりと笑い、法皇自身を指差した。
「父は、わしじゃよ。」

顕仁は興奮して我知らず両手を開いて、白河法皇を詰問していた。
「・・・そんなはずはない!!あなたは私の曽祖父(ひいおじい)様です!―冗談をおっしゃらずに・・。私の父院、一院(鳥羽院)はどこにいらっしゃるのです?」

「顕仁・・・?」
白河法皇は悲しげな表情をして消えていった。

その後に-
一院の姿が現れた。
一院は今年37歳、怖いくらいに整った顔つきが、冷たい印象を与える。
顕仁は幼い頃、母である女院に宮中に連れて行かれて、父院にお目通りした時から、一院がお笑いになった御顔を拝見した事はない。

顕仁は愁眉を開いて、一院に呼びかけた。
「父院!」

しかし一院の後ろから、赤子を抱えた黒髪の美しい女性が現れた。

顕仁はいぶかしそうな目をした。
「あれはもしや・・・体仁(なりひと)に女御・得子(なりこ)?」

突然一院は目をかっと大きく見開き、顕仁をにらんだ。
「―顕仁、体仁の即位にとって、お前は邪魔な存在じゃ!」

「さっさと消えろ!」

一院の手が顕仁の体を思いっきり押した。
顕仁は足元をよろめかせ、後ろに倒れこんだ。

そこには、さきほどから顕仁の後ろを追っていた黒雲が待ち構えていた。

顕仁はなすすべなく、黒雲に飲み込まれていった。

-内裏・清涼殿―
帝の寝所である夜の大殿(おとど)で、搾り出すような叫び声がした。
「ああああ!父院、なぜ・・・!」

「どうしました?主上。」

「いや、何でもない。」

「かなりうなされて、父院、父院とうわごとを口走っていらっしゃいましたが?」

「何でもないのだ!放っておいてくれ!」

「はぁ・・。」


今日は、弟宮である体仁親王が、私の猶子になるために参内してくる。

私は、一体どんな顔をして会えばいいのだ?

母宮から父院の愛を盗んだ女の腹から出てきた子、私の地位を脅かすかもしれない子に―!!



「五の宮様のお渡り・・・」

崇徳、ドキドキ

体仁「ふぁ・・・・」

「ふん」

崇徳、何かに気づいたような嬉しげな顔。
「あ・・・・」

「抱かせて・・・くれぬか?」

(ああ・・・この子には何の罪もない。私は一体何を恐れていたのだであろう・・・。)


(この子が笑えば、笑い返せばいいのだ。)
(憎むべきは、この子の存在を利用して、自分の野心を遂げようとする者たちなのだ・・・・!!)

「かわいい・・・私もはやく皇子を持ちたいものだ」

「だぁ・・・」

ざわ・・・

ぎょっ

崇徳の前でしなを作る女房達

(おや・・・ここいらにも野心のかたまりがぞろぞろ・・・)

(あれ?)

兵衛佐のアップ

体仁を戻しながら「あの女房は?」

「ああ、あの娘は最近入った女房です。源行宗卿の養女で、皆に『兵衛佐』と呼ばれております。」

「ふぅん・・・」

(なんだか、爽やかな風が吹き抜けていくような人だ・・・。)


その日の夜―

本を読んでいる兵衛佐のもとに人影が・・・

「きゃっ誰?」

「うわっ」

「あ・・・」

「主上・・・なぜこのような所に・・・?」

「そなたをゆかしく思って・・というのではいけないかい?」
崇徳、両手で頬を挟む。

「お人違いでございましょう・・」
震える

「いや、ここは確かに兵衛佐の局だときいた。」
「そなたは・・・兵衛佐だな?」

「はい、確かに・・・」
「けれど、なぜ私を?」

「なぜその様な事を?そなたは私が嫌いなのか?それとも誰か言い交わした男がおるのか?」

「私には何の後ろ盾もありませぬ・・・。」

「何だ、そんな事か・・。後ろ盾のある女御としか子が作れない時代は、父院の時代で終わった。そなたがまろの皇子さえ産んでくれれば、まろはそなたを女院にでもできる。」
「・・・そう、父院があの女を女院にしたように・・・」

「だから、そんな事は心配するな・・・。さわやかな風の様に美しい人・・・。」

崇徳は兵衛佐に口付けた。



「佐・・・そなたは本当に可愛い・・」
「この瞳も、この髪も、この手も・・・」

「・・・なぜ泣いておる・・・?やはりそなたはまろのことが嫌いなのか?」

「だから、昼間の体仁との対面の時もまろを見ようとしなかったのか?」

「いえいえ、とんでもございません。主上はとてもお美しくて、優しくて・・・情熱的で・・。」


「・・・じゃ、あの時、そなたはどうしてそっぽを向いていたのか?」

「まぁ、私ったらなんて畏れ多い事を・・お恥ずかしいです・・・」

「実は・・・上の空で海のことを考えておりました。」

「海?」

「暗く、遠い海。須磨で光の君が見られたような海を。」

「海・・・か。」

「いつか、二人で行こうな。」

「行けるでしょうか?」

「行けるさ。」
崇徳、兵衛佐の手に手を重ねる。

「まろが退位したら、もっと身軽に移動できるようになる。白河法皇様だって、退位されてから四十回も熊野詣でをされたのだから。」

兵衛佐 「・・・・・・。」



殿上人たちの会話

「近頃、主上は夜御殿に兵衛佐ばかりを召していらっしゃるな」

「ああ、全く源氏の桐壺更衣もかくやの扱いをなされているな」

「困った事だ・・主上には関白様の御娘の中宮様もいらっしゃられるのに、全く蔑ろのお扱い・・・」

「このまま兵衛佐が皇子を産んで国母にでもなったらえらい事だ!」

「兵衛佐の養父・行宗殿はあの梅壷女御・源基子殿の同母弟らしい・・・」

「姉が実現できなかった夢を養女でかなえようとしているって事か・・・行宗殿もおとなしそうな顔をなされてやるものじゃのう・・・」

「おお、そうだ兵衛佐の実父は誰か知っているか?」

「誰なんだ?」

「法勝寺の生臭坊主らしい・・。」

「僧侶か?へぇ~道理で物腰が賎しいと・・・」

「一体どのような手練手管で主上をたらしこんだんだろう?」


教長
「こら!何無駄口たたいとるか!」

びくぅっ!!

「ふん・・・。」

主上の御前で

「・・・で、私は彼らを叱責しましたが、それだけでは物足りない位でしたよ!」

「殿上人の質も落ちましたな!」

「なぜ、佐とまろの間を肉のつながりとしか捉えられぬのだろう・・・」
「そのように人の陰口をたたいて一生を終わるつもりか?哀れな者達・・・。」

教長、ふっと微笑む。

「・・・でも、私は嬉しいのです。主上。」

「教長?」

「今まで何となく暗い影が付きまとわれていた玉顔に最近めっきり自信が戻ってこられている事が・・・。」
「これが兵衛佐のおかげなら、彼女は素晴らしい女子(おなご)です。」

「兵衛佐の素性など関係ございません。一生大事になされませ・・。」

「ああ・・。」

「私も陰ながらお二人を支えて参ります・・・。」



数日後

兵衛佐「まぁ・・美々しいしつらえですこと・・・」

「本当に・・」

「あ・・・乳母殿」

「兵衛佐は歌会の催しは初めて?」

「あ・・・はい・・・」

「主上は和歌がお好きで、十三の頃から度々このような催しをなされております。」

「あ・・それはお父上の行宗卿からうかがっておりますわね」
「主上は歌会の場でしか心通わす人々とお会いになれないから・・・」

歌会の場

「(仮)わたのはら・・・」
「こぎいでてみれば しろたへの 雲居にまがふ 沖つ白波」

崇徳「おお・・・」

「万葉ぶりの雄大な歌じゃ」

「さすが関白、素晴らしい歌。」

御簾の後ろ、女房達と共に控える兵衛佐
(この方が関白忠通様・・・中宮様の御父上。)
(艶に優雅だけれども、視線に抜け目のなさが漂っているような・・・)

「中宮様から主上へ御文です」

崇徳
「関白、中宮から、今宵は歌会からそのまま弘徽殿での管絃の宴にしてほしいと申してきたが・・いかがしよう?」

「主上さえよければ、こちらはすぐに御用意できますが・・」

「・・・今夜は・・・」
(兵衛佐と逢おうと思っていたのだが・・・)

「弘徽殿に参ろうか」
(弘徽殿、ひいては関白を立てていれば・・・兵衛佐をそうひどく圧迫はしないだろう・・・)

関白、行宗をちらっと見て、すぐに立つ。

兵衛佐、久しぶりの一人寝の床に泣く。
主上、文をすぐに書いて出す。

兵衛佐、つわり。
妊娠が発覚。・・・だったかな?年表を作成。

兵衛(でも、なんだか違う!このまま、主上の優しさに甘えていてはいけない!)
(私には、主上の心の軋みが聞こえるような気がするのだ。)


清涼殿

崇徳「何だ?話とは。」

関白「いえ、話というほどのものではございませんが・・・」
「本年は主上が元服なされてから十年目になりますなぁ・・・」

「主上の元服から十年たって御世継ぎが決まっていないという例は聞いた事がございませんなぁ・・・」

「・・・何が言いたい。」

「一院は、体仁親王の行く末を大変気にかけていらっしゃいます。」

「・・・で、まろにどうしろと?」

「いえ、私めは何も・・・ただ、主上がなすべきことをなされないと、後政務に後々支障が出ると思われるだけで・・」

「―脅すつもりか?」

「いえ、私めはただ一院の御意向をお伝えしたまでで・・・」

「―下がってよいぞ」

「はっ・・・」

「忠通・・・得子の犬め。」
扇を力強く投げる。




夜御殿
「うう・・・うう・・・」

兵衛佐が気づく。

崇徳、うなされている。
「それはないです・・・寵姫の腹に皇子ができたならまろは用済みとばかりに退位ですか?まろは父院の傀儡(くぐつ)じゃない!」
「十年間思い通りに政を行って・・・これ以上何が不足なのですか!」

「主上、主上、しっかり!」
兵衛佐がゆすって起こす。

涙に濡れた目を開ける。

「母宮!」
といって抱きつく。

「恐ろしい・・・父院は恐ろしい・・・」
震える。

「父院はまろから何もかも奪おうとなされているのです!かつて白河院が父院に対してなされた事を全てまろに!」

「主上・・・」

「佐・・・?じゃあ、今のは夢・・?」

「佐・・黒雲が自分に迫ってくるような雰囲気って感じたことがあるか?」

「―いいえ?」

「まろはいつも感じている。父院の憎しみが常にまろの周りを取り囲んでいるんだ。」

兵衛佐、その不安を取り除くような上手い事を言う。

崇徳、自然に涙が流れてくる。

崇徳「―そなたの事を好きになってよかった。」

「―しかし、父院一派にとってまろは籠の中の鳥同然だ。」
「これから地獄への道行きを強いられるかもしれないが・・・まろと共に歩んでくれるか?」

「・・・はい、よろこんで。」

後に、崇徳院と兵衛佐との間に生まれた重仁親王の即位が阻まれた事が契機となり、保元の乱が勃発した。

結局崇徳院は敗北し、院は平安時代の上皇として始めて讃岐国への流刑に処せられた。

兵衛佐は崇徳院に同行し、讃岐へ渡り、崇徳院の最後を看取った。

この十六年後の事である。

(終わり)2007.7.16

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もちっと事実関係を整理して、キャラ付けもはっきりしてからマンガとして完成させたいです。

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