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小倉百人一首 第七十二番 祐子内親王家 紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)

堀河院御時の艶書合(けさうぶみあはせ)によめる   
(中納言俊忠

人しれぬ 思ひありその浦風に 波のよるこそ いはまほしけれ)

返し

音にきく 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ

(『金葉集』恋下・469)

【通釈】堀河院の御代の艶書合(けそうぶみあわせ)の時に詠みました。

中納言・俊忠(藤原俊成の父、定家の祖父)

私は人知れず想いを寄せています。有磯の荒い浦風に波が寄せるように夜になったらこの想いを打ち明けたいものです。

返歌

噂に高い高師浜の悪戯に立つ波にはかかりませんよ。袖が濡れると大変ですから!

―噂に高いあなたの浮気な言葉には思いをかけませんわ!後で袖が涙で濡れるといけませんから!

【語句】

(俊忠の歌)

*「ありその浦」:「普通名詞『荒磯海』とする説もあるが、ここでは歌枕の有磯海であろう。」という水垣氏の解釈に従います。

*「あり」は「有磯の浦」と「思ひあり」をかける。「よる」は「寄る」と「夜」をかける。

*「浦」「波」「寄る」は縁語。

(祐子内親王 紀伊の歌)

*「音に聞く」:「音」はここでは評判の意味。

*「高師の浜」:和泉国、大阪府堺市西区浜寺から高石市に至る一帯。俊忠の「有磯の浦」に呼応。

*「たかし」:「(噂に)高い」と「高師の浜」をかける。「かけ」は「(波を)かける」と「(想いを)かける」をかける。俊忠の「あり・よる」に呼応。

*「浜」「波」「ぬれ」は縁語。俊忠の「浦」「波」「寄る」に呼応。

*「あだ波」:いたずらにざわざわと立つ波。浮気な人のナンパな言葉を暗示している。

*「かけじや」:「かけ」+「じ(打消しの意思、助動詞:~しない)」+「や(詠嘆の間投助詞:わ!)」

*「ぬれもこそすれ」:「ぬれ」+「もこそ(予想される悪い事態に対する不安・心配の気持ちを表す。:~すると大変だ。)」+「する(サ変の已然形。係助詞である「こそ」の結び。)」

【本歌】源氏物語「若菜上」(北村季吟説)

身をなげんふちもまことのふちならでかけじやさらにこりずまの波


【解説】院政期初期、王朝文化が爛熟してその極を迎えており、物合わせや歌合の会が盛んに開かれていた頃―
康和四年(1102)、閏五月二日(新暦でいったら六月、ちょうど梅雨の頃です)、内裏で開かれた「堀河院艶書合(ほりかわいんけそうぶみあわせ)」で詠まれた歌です。

「堀河院艶書合(ほりかわいんけそうぶみあわせ)」とは、公卿、殿上人が恋歌を詠んで女房のもとに贈り、それへの女房達への返歌をそれぞれ番(つが)えさせる趣向の歌合です。

男達からの恋歌は数日前に趣向を凝らした薄様の紙に書かれて女房達の許へと届けられていました。歌合で女房達の返歌と一緒にされて披露されました。

さて、紀伊に恋歌を贈った公卿とは―それは百人一首を選んだと言われている定家の祖父・中納言俊忠です。その歌は上を参照して下さい。

この時、俊忠は29歳、それに対して相手の紀伊は70歳前後。仮の相聞歌贈答とはいえ、全くこの年齢差を感じさせず、はつらつと艶な歌を返しています。

上の語句を参照してもらえばお分かりになるように、俊忠の仕掛けてきた技巧をしっかりと受け止め、それに対して見事な技巧で返しつつ、その上鮮やかな機知で男性の誘いをかわしています。

老いたりと言えども頭脳と色気は衰えていません。さすがに天喜四年(1056)から永久五年(1113)まで50年以上歌壇の最前線にいるだけあります。

余談ですが、定家は、曾祖父の忠家のエピソード、祖父の俊忠のエピソードを百人一首に採っています。百人一首の歌人を吟味する事によって、定家の家系がたどれてしまうのは面白いと思います。

 

【略歴】
<基本データ>
*平安後期(11世紀後半)の女房、歌人 *別称:一宮紀伊 *生没年未詳 *後朱雀天皇皇女・祐子内親王に仕える。 *父:平経方説あり。しかし年齢的にあわない。 *母:祐子内親王家 小弁(散逸物語『岩垣沼物語』作者。歌人) *紀伊守・藤原重経の妻であることより紀伊と呼ばれる。 *自選家集『紀伊集』(『祐子内親王家紀伊集』『高倉一宮紀伊集』とも呼ばれる) *女房三十六歌仙

詳しい伝記はこちらをクリック。

【装束について】初夏なので、紀伊は蓬のかさねを基にした女房装束。対する俊忠は中納言は艶書合が行われたのは内裏ということで絶対正装の束帯を着ているだろうと思ったので束帯を着せ、中納言は従三位の相当であることより、三位以上は黒であるので、黒の束帯を着せました。
 

参考:千人万首「祐子内親王家紀伊」、平安時代史事典「紀伊」、川口久雄『人物叢書 大江匡房』

2006.7.8. 葉つき みかん


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