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「漢詩を和歌に翻案できるか?」
大江千里は宇多天皇の御言葉をうかがい、耳を疑った。
「漢詩を和歌に…ですか?
音韻も平仄も全く違うのです。
漢詩を和歌に翻案したら、漢詩の美しさのほとんどは消えてしまいます。
主上はなんのためにこのような事を思いつかれたのですか?」
「嵯峨の院からこの方、この国では漢詩ばかりを崇めてきた。
確かにまろは漢詩は大好きだ。
しかし、自然な心を表すにはどうしても和歌を作ってしまう。
この国の文学には、漢詩も和歌も必要なのだ。
ただ、和歌は大らかで素晴らしい反面、繊細な感情を表す表現がまだ足りていない。
この表現を、漢詩の技巧から取り入れたい、その為に漢詩と和歌、両方に通じているそなたに頼みたいのじゃ。」
「私めには荷が重すぎます。漢詩と和歌、両方に私よりも遥かに通じていらっしゃる菅丞相に…。」
「いや、右府には新撰万葉集編纂を命じている。これ以上の負担はかけられぬ。
どうか頼まれてくれぬか。」
主上に深々と頭を下げられた大江千里は、勅命を辞退することは出来なかった。


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